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びざん
眉山
「小説新潮」1948(昭和23)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页
すると、傍でそれを聞いていた眉山は、薄笑いして、私は小さい時から、しっかりした階段を昇り降りして育って来ましたから、とむしろ得意そうな顔で言うんですね。その時は、僕は、女って浅間しい虚栄の法螺を吹くものだと、ただ呆れていたんですが、そうですか、学校育ちですか、それなら、法螺じゃありません、小学校のあの階段は頑丈ですからねえ。」
「聞けば聞くほど、いやになる。あすからもう、河岸をかえましょうよ。いい潮時ですよ。他にどこか、巣を捜しましょう。」
そのような決意をして、よその飲み屋をあちこち覗いて歩いても、結局、また若松屋という事になるのである。何せ、借りが利くので、つい若松屋のほうに、足が向く。
はじめは僕の案内でこの家へ来たれいの頭の禿げた林先生すなわち洋画家の橋田氏なども、その後は、ひとりでやって来てこの家の常連の一人になったし、その他にも、二、三そんな人物が出来た。
あたたかくなって、そろそろ桜の花がひらきはじめ、僕はその日、前進座の若手俳優の中村国男君と、眉山軒で逢って或る用談をすることになっていた。用談というのは、実は彼の縁談なのであるが、少しややこしく、僕の家では、ちょっと声をひそめて相談しなければならぬ事情もあったので、眉山軒で逢って互いに大声で論じ合うべく約束をしていたのである。