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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

「さ。……どれほどあとに残るかな。直義」

訊かれた直義はまた、かたわらの師直を見て。

「師直。千五、六百人程はひッさげて行かれようか」

「いや、とんでもない」

と、師直は首を振った。

「その半数にも足りますまい。せいぜい、筑紫落ちのおん供は五、六百人に過ぎぬかと存じられまする」

「それでいい!」

と、尊氏はためらいなく二人の横から断をくだして。

「手勢は五百もつれておれば充分。尊氏の兵力は行く先々においてある。――が、師直はいま何と申したか」

「はっ。……?」

「筑紫落ちといったな。たわけめ。尊氏の下向は、敗れたりとはいえ、落人の身隠しなどとはわけがちがう。いうならば、筑紫びらきと申せ」

「これは、師直の失言でござりました。平におゆるしを」

「余人ならともかく、執事のそちが知ってないはずはない。かねがね筑紫の武者どもへは、他日のため、何くれとなく手を打っておいたことぞ。尊氏はその刈入れに下るのだわ」

こう師直を叱っておいて、尊氏はそのおもてを全体の武将たちへむけ直した。そして筑紫入りにいたずらな大兵は要すまいという見解に次いで、

「むしろ、瀬戸内の海路こそ、あとの大事。