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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页
尊氏は読んだ。一読、愁然としたきりであった。
太宰府を死守して、そこの失陥とともに自刃した妙恵入道が、子の頼尚へあててよこした末期の一文は、悲壮きわまるもので、その走り書きをたどれば、
――自分は遂にここで終る
元々
足利どのと志を契って
御為の下に果てること
さらさら何の悔いではない
このうえは
其許(頼尚)を初め
生き残ったわが一族は
いちばい心をかため
そして尊氏公を
天下のあるじと仰ぐまで
忠節を尽せ
働き抜け
それが我への大仏事ぞ
陀羅尼の経もどんな供養も
それ以外に
我への回向はないとせよ
と、あったのである。
「頼尚……」
やがて、尊氏が言った。
「わが家には、家祖家時公の“置文”というものがあった。これは少弐の家の置文といってよかろう。護符として、大事に肌に持っているがよい」
尊氏は、妙恵の遺書へ、ていねいな拝を添えて、頼尚の手へ返した。――太宰府が早や敵手に落ちてしまったのは、このさいの尊氏には、まったく拠り所を失った大傷手ではあったものの、同時に妙恵のこの一書が、いかに彼の滅失を鞭打し励ましたことか、これも、はかり知れないものがある。おそらく、彼の胸には、意識なく、平時の日に坐っていた“禅”の禅機が生きて働いていたにちがいない。