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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

すでに、十八日ごろ。

直義の大軍勢は、破竹の勢いで、備前和気郡の三石へかかっていた。――船坂峠へかけて、ここは山陽第一の嶮といわれる砦である。

あらかじめ、直義もそこでは一大血戦をかくごしていたが、はや大風を知って散り退いた枯葉のごときものだった。敵は、ここばかりでなく、但馬境から赤穂にまでわたる諸所の陣もみな引いて、一せいに、播州加古川へぞくぞく落ちて行くと聞え渡った。要するに、加古川は、総大将義貞のいる宮方勢の総本陣と、自然、大きく分ってきた。

刻一刻、海陸の足利勢は、もうついそこの、播磨ざかいまで上ッて来ている。

ここで当然、

義貞は何していたか?

の疑問にぶつかる。

事実、尊氏がついやしてきた二タ月と、義貞の二タ月とでは、差がありすぎる。

といって、都の京雀が、いちがいに、

「……あたらこの期を、勾当の内侍の色に溺れ給うて」

などとしている蔭口は、決して、その真相を言い当てているものではない。

たしかに、三軍の総帥としては、勅を拝しながら、その都立ちも遅れてはいた。だが、その十日ほどは、多少、兵馬に休養をあたえたり、また下へも恩賞など頒けてやらねば、あとの士気もあがらぬような、期間であった。