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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

おそらく、尊氏からも、すでに筑紫を発するまえから、あらゆる招致の手段は、すでにしつくされているであろう。

もちろん、朝廷からは、数度におよぶ詔も勅使も降っている。

が、その反応は一こうにみえていないし、正成の観察では、すこぶる心もとなかった。彼が派した田辺への働きかけも、この期における彼の前提戦略として、どうしても、よそにはしておけぬことだったのだ。

要するに――

熊野水軍の向背は、どっちとも、これを俄に予断することはむずかしい。

帰するところはこれからの戦局次第だ。大勢のいかんによって微妙なうごきを見せ出すことであろう。――正成はそう観る。――そしてこれ以上な策もいとまも今はあるまいと、腹をきめたようだった。

「……ですが」

と、三名のつぶさな報告も、やがて終りかけてから、甥の楠木弥四郎が、

「田辺の別当をめぐる一群の熊野衆には、尊氏方あり、日和見もありですが、われらがお会いした切目ノ法橋どのは、われら楠木党へきつい肩入れの御仁でございましたな。なあ助家どの」

と、あとをまた、助家のことばに譲った。

「されば――」と、助家はうけて「万が一、別当どのが怯んで、朝廷方へお味方せぬばあいには、一味同心だけをすぐって、一船陣を作り、尊氏が兵庫へせまる日、かならずこなたは紀伊水道から摂津ノ沖へ出て、御加勢に加わりましょ