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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

彼のその願文は、秘封のままで清水寺へ納められた。内容はたれにも知らされていなかった。――彼の心の秘密だからだ。――御仏さえ知って行くすえおききとどけ給わるなら、としていた尊氏の願望だったにそういない。

この世は夢のごとくに候 尊氏に 道心 給ばせ給い候て 後生たすけさせたばせ給い候べく候

とくと 遁世いたしたく候 道心 給ばせ給わるべく候

今生の 果報に更えて 後生たすけさせ給うべく候 こんじょうの果報をば 直義にたばせ候て 直義を安穏に まもらせ給い候べく候

(原文ハ旧仮名、又、少々補修)

建武三年八月十七日

尊氏(花押)

清水寺

おそらく、尊氏は身をきよめ、心を洗って、したためたことであろう。みじん、嘘いつわりを書く要はない。本心、彼は彼自身をこう打ちのめしていた。

しかもいまや一世を風靡している勝者だ。

九州を征服し、山陽山陰を掃き、正成、義貞に勝って、思う皇を御位に即かせ、身は大御所、大将軍とあがめられている栄位にある。

にもかかわらず、尊氏はこれに満足できなかった。有頂天になって驕れないのである。逆に、あさましいとすら自己を観照されだしていたのだった。