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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

ところで。義貞は、まだ何も知らずに、ひがし坂本の彼岸所の本営にいたが、その朝、

「はて、ふしぎな説を?」

と、判断に迷っていた。

――というのは、洞院ノ実世の使いと称する者が陣門へ来て、

「今暁、主上には、尊氏との和議によって、俄に、洛中へお還りになることになりましたが、新田どのには、ご存知あるのか否か。……また、龍駕に供奉して行かれる御所存かどうか。事あまりに唐突ゆえ、お耳にまで入れておきまする」

と、告げたままで、その使いは、風のごとく、帰ってしまったというのである。

「なにかの、まちがいであろ」

義貞は笑ったが、しかし、不安を持たないわけではなかった。ただ事は余りに重大なので、さっそく、ふもとにいる弟の脇屋義助を迎えにやった。そのうえでと、思ったのである。

すると、すぐ、

「大殿、何ぞ御異状はございませぬか」

近くの陣所から一族の堀口美濃守貞満が来てたずねた。――貞満は、義貞から、云々のことで、いま義助を迎えにやったところだと聞くやいな。

「すわ、それこそ奇ッ怪事だ。なんとなれば、ゆうべから今暁のあいだに、江田ノ兵部行義と、大館左馬助氏明のふたりだけが、いずこへか、陣所を移し去っておりまする。