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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

も、「放ッておけ」も、じつは非情につつんだ愛情にほかならないものだった。

ところが、――今。

爺の恩智左近がいうのを聞けば、妹夫婦は、過ぐる雨乞いの夜から、正季の龍泉の屋敷奥に、ひそかに、かくまわれている、とある。

「……ああ、ついに来たか」

むりもない。そう思う。

ふるさとだ。妹にとっても、ここは生れた山河なのだ。さすらいの果ては、来ずにはいられまい。

――ついそこの、渓川に遊び跳ねている童の群れを見るにつけ、その中に、妹の幼い頃の姿もあるように……正成の瞼は、遠い過去を、描いていた。

「……左近」

「はっ」

「そして、正季は、妹夫婦を、あくまで匿う所存なのか、どうなのだ」

「さ、そこを、どうしたものか、伺うてくれとの御意でございました。一族の長たる兄君のおさしずによらねばと」

「わしにか」

正成は、辛さの余り、知れきッている立場なのに、そう反問した。――窮鳥、懐ニ入レバ猟師モ撃タズ――そんな古い言葉も、今の彼には切実だった。

千早川の裸の子らも、蝙蝠に気がつくと、みな上の灯を見て崖を這い上がっていた。

夕まぢか。正成はまた、客と会っていた。

同族の南江正忠、松尾季綱、橋本正安など、いずれも、近村に住む縁者どもで、