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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

……そうだ、そうだったわと、今さらながらの一つの光明を、おん母子の姿から、いただいた気がいたしました」

身を絞るような声の慄えであった。その語気に、卯木も草心尼も、足をとめた。――眼の見えない覚一までも、思わず、面を澄ましていた。

「……考えてみると、夫婦の心がけが悪かったのです。じつは、これまでにも二人の子を亡くしています。次が生れれば三人目です。こんどこそ亡くさぬように慈しみまする。そして、自分にかなわぬ今の希望を、子の代につないでも、やがて尼前とお息子のような道を、私たちも、気を長う、後から歩くことにしましょうわえ」

と誓うように、なお、妻へもいった。

「のう卯木。……所も住吉の御前、今朝のことを、忘れまいぞ」

うなずいた卯木の白い顔に、松の花の粉が舞った。刻々、浜は明るさを増している。

船頭の声にせかれて、渡り板にはもう男女の人影が立ち並んでいた。草心尼も覚一の背を抱えるように群れへ交じった。……そしてもいちど、舷から振向いて、あとに立ち残っている卯木夫婦に、

「……左様なら」

離別のわびしさを見せていた。

舟はすぐ岸を離れる。

覚一も、ひろい波間を感じると、母の尼に寄り添って、