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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
03 みなかみ帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页
「よかったのう、都へ出て来て……と、時には沁々、言い合うているほど、なんの苦労もござりませなんだ。けれど、昨日今日の恐ろしげな人の有様。どうなることでございましょうか」
「いや、この騒ぎも、ほどなく鎮まろうが、しかし、当分は世間も物騒、尼前や盲の外出など、思いもよるまい。お二人には、しばらく、この小松谷におられるがようござる」
探題たる仲時にさえ、今は、時局の帰結は分っていない。母子の保護には、それ以外ないと考えられたのである。
「遠慮なく、幾日でもいたがよい。この小松谷は、むかし平ノ重盛卿がおられし跡。飽いたら、覚一は、琵琶なと抱いて、燈籠ノ大臣の風流事など偲ぶもよかろう。とまれ、わが家と思うて、遊んでいやい」
言いのこして、越後守仲時は、今日も出仕支度さえ忙しげに、従者をしたがえ、小松谷の館を騎馬で出て行った。
そして、車大路へ出ると、出会いがしらに、大和街道から北へ、眼のいろ変えて走って来る六波羅捕吏の一群があった。そしてそのまッ先を、韋駄天のように飛んでいたのは、検断所の本庄鬼六だったので、仲時が馬上から呼びかけて、
「鬼六、何事か」
と、訊ねると、