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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

03 みなかみ帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 页

青空文庫

玄恵は、彼らに利用されるのを、知ってか知らずにか、唯々として、それにも出席し、天皇の侍読に挙げられれば、それにもなった。

けれど、自身の新学説が、いかに天皇以下の、公卿新人を刺戟し、また世に波及するところが大きいか、そこまでは、われ関せずの態であった。一個の学僧は、あくまで一個の学究にすぎずと、みずから身を低く処しているような人である。

「親もととして、卯木を女院へ御推挙ありしは、貴僧なりと伺うているが、それは、いかなる御縁からで?」

成輔が、さぐると。

「されば、卯木の河内の実家方、楠木家と、わが家とは、遠い姻戚にあたるのでな」

「これは初耳。では、楠木多聞兵衛正成と、貴僧とは」

「いやすでに、前代楠木正遠が、北河内の玉櫛ノ庄の出屋敷にあって、あの辺りの散所を支配していた頃からの誼みでおざった」

「して、卯木とは」

「あれは、その正遠の末娘よ」

「すると、正遠は、はや亡き人ゆえ、卯木の実家方をたどるなれば、必然、水分にて家督をつぎおる現当主、楠木兵衛となりますな」

「さよう。正遠のあとは、嫡男正成、次に弟の正季……。その下にまだ女子がいたやらいぬやら。ともあれ、卯木は正成の妹にあたる者でおざる。