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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

その右にある腰高障子は勝手口だが、どっちから出入りするにしても、履物は戸外へ置くことになるし、雨の日や寝るときには勝手へ上げるのであった。

「――いるか」

外でもういちど呼ぶ声がした。こんどは少し高かったので、六助は「おい」と答えた。答えて、障子に映っている影を見て、彼は顔を崩しながら大きな声で云った。

「あけて入ってくれ、一杯やってるところなんだ」

障子があいて、中次が顔を見せた。

「やってるのか」

「このとおりさ」と六助はうきうきと云った、「まあこっちへ来てつきあってくれ」

「肚が立ってしょうがねえ」

中次はあがって、障子を閉めて、六助の脇へ来て坐った。やっぱり酔っているらしい、顔色が蒼ざめ、眼がとろんとしていた。その眼で彼は六助を見た、六助のほうでも飢えたようにそれを見返した。そして、それで仲直りのできた証拠のように、二人は同時に眼と唇で笑った。

「まあ、これで一つやってくれ」

「おらあ肚を立ててるんだ」中次は盃を受取りながら云った、「癪に障ってしょうがねえんだ」

「なにをそんなに怒ってるんだ」

「お梅のやつよ、あの魚金の娘のやつよ」

「聞いたか、あれを」六助が云った、「そいつをぐっとやってくれ、まあもう一つ、……おめえ聞いたのかあれを」