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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

四

四

「どういう気持なのか」と六助は首を振った、「どんなこころもちなのか、銀流し……」

明くる日の夕方であった。長屋の七軒めの家で、六助は独りで酒を飲んでいた。もちろん食器もなにもない、みんな魚金から届けて来たものであった。二人が稼ぎを休んでいて、食事どきに店へゆかなければ、魚金のほうから届けて来るのが、定りになっていた。今日は届けに来たおそめに酒の追加を命じ、彼はもう五合ばかりも、冷のままで飲んでいた。けれども、そのために昨夜のことにこだわっているわけではなかった。酔っているために独りでお梅にからんでいるのではなかった。ただしぜんと口に出るのであった、ほかにはこれといってからむものがない、生活はつねに単純に割りきっていた。あとでむしゃくしゃしたり、いつまでも頭にひっかかるようなことは決して残さない習慣であった。中次のことを思うのがやりきれないとすれば、お梅の毒舌にからむよりしかたがないのであった。

「――いるか」

外で声がした。そして障子に人の影が映った。この長屋の家には入口がない。土間の付いた入口というものがなかった。六帖ひと間の、路次に面して障子があって、出入りはそこからするのである。