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あきのかご

秋の駕籠

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,356 字 · 35 页

青空文庫

「あたしは気にいりましたよ、ええ、お梅ちゃんから聞いてましてね、友達というものはそうなくちゃあならない、お世辞じゃないがいいもんですな、じつにいいもんですよ、ええ」

六助は眼をすぼめた。いつのまにどうしてそんなことになったか、例のいそという商人風の客が、二人の席へ来て坐っていた。

「どうしたんだこれは」六助は中次を見て云った、「この人はいつ此処へ来たんだ」

「箱根までゆくんだ」中次がもつれる舌で答えた、「通し駕籠で箱根までよ、おれとおめえとで、駄賃は五両だ」

「箱根がどうしたって」

「まあまあ、一つぐっとやって下さい」いそという男が云った、「話はもう定ったんだから、おまえさんたちの仲の良さに惚れちまってね、ちょうど遊山旅に出たいと思ってたもんだから、どうせなんならおまえさんたちの駕籠でゆきたいと思ってさ、いいえお世辞じゃない本当ですよ、まあ一つぐっと」

「わけがわからねえ」六助は首を振った、「通し駕籠で五両、……箱根まで、……ういっ」

じつのところ六助はわけがわからなくなった。暗闇や、八間の灯や、人の顔がちらちらし、器物の音や、誰かの話したり笑ったりする声などが、遠くなり近くなったりして聞えた。