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いのうはりまのかみ
稲生播磨守
林 不忘
「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,172 字 · 29 页
一同はこの奎堂の異様なようすに、眼を瞠り、粛然としている。
矢沢 (いきなり進み出て、つぎの刀を取ろうとする奎堂の手を押さえる)しばらく! ただならぬただいまのお言葉、気掛りでござる。その刀がいかがいたしました。かまわずお打ち明け下されたい。
奎堂 (ちらりと上座の播磨守を見やって)いやいや、何でもござらぬ。何でもござらぬ。拙者の眼違い、けっしてお気に支えられぬよう。(と蒼白な顔でごまかして、いそいでつぎつぎに刀を見る)これも吉、これも吉、これは――。
矢沢 久保氏、其許の挙動は、合点がいきませぬ。何かはばかりのあることですか。
奎堂 わたくしもとんと合点がいきませぬ。じつに恐しともおそろしき剣相――いやなに、いや、拙者の見誤りでござる。はは、ははははは。(青白く笑う)
播磨 (じっと奎堂を見つめていたが)奎堂足下、いかなることか、その刀相を述べてみるがよい。
奎堂 おそれながら、君子は怪邪魔神を談らずとか。久保奎堂、荒唐無稽なることは、君前において申し上げかねまする。その儀は平に御容赦を。
播磨 ははははは、変ではないか。みょうではないか。刀の観相に絶対の自信を有する、当代無二の久保奎堂が、それなる一刀にかぎって荒唐無稽などとは――言えぬとあらば、なお聞きたい。