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たいない
胎内
三好 十郎
「中央公論」1949(昭和24)年4、5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,766 字 · 136 页
村子 あんた、なんにも食べてないんじゃないの?……ええ。だからさ……(佐山が、モソリとクビスを返して、自分がもと寝ていた片隅へ行く)……食べるものあげましょうか? あるわよ。
佐山 いや……(リュックをまとめにかかって、手の中のサツタバに気づき、右手ではリュックの紐を持ちあげたまま、その左手のサツを見ている。花岡のロウソクの光が、奥から近づく)
村子 (コートの方へもどって、しのこしてある仕度を手早くしながら)早くしてね。
(そこへ、花岡がスタスタもどって来る)
村子 雨、まだふってる?
花岡 ……(立ちどまって妙な顔をしている)
村子 やっぱり、だあれもいやあしなかったでしょう?
花岡 いや――
村子 気のせいよ、あんたの。
花岡 開かないんだよ。
村子 え? なによ?
花岡 戸が開かない。どうも、この――
村子 戸? 入口の? だって、さっきしめたんでしょ?
花岡 うむ。……(妙な顔をして、泥だらけの手をチラリと見せる)俺だけじゃ、開かない。地震があったな、さっき。あれで、すこし、きつくなっちまった。
村子 そうかしら? だって、そんな――(まじめには取っていない)どれどれ……(自分も手伝う気で行きかけるが、そのままここを出て行くつもりで、スーツ・ケースの方を片手にさげ、コートを取り上げ、泥を払って肱にかける)