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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
学問をするのに、どうして家臣を憚るのか。こんな深夜に隠れてしないで、なぜ昼のうちにしないのか。おたきにはまったく理解できなかった。もちろんなにか仔細があるのだろう、鴨猟のときすでに、おたきの心には一種の疑惑がおこっていた。あのとき彼女は、光辰がべそをかくのを見、重太夫と家老との問答を聞いた。――光辰はもっと鴨を喰べたいようすで、箸を持ったまま、小姓頭の顔を悲しげに見た。すると重太夫が空咳をし、するどい眼つきで睨んだ。それでも光辰は諦めかねたのだろう、べそをかきながら、「みなにくつろげと云え」と重太夫に云ったのだ。そう云えば鴨がもらえるかもしれない、という願いの気持が、そのまま声になったような調子であった。
――なんというおいたわしいことを。
とおたきは思い、眼をそむけたものであった。
殿さまの頭が満足でないから、御家臣たちがばかにしているのだ。それにしても、五万六千石の藩主でありながら、なんという気の毒な方だろう。誰か五人や十人、味方になってあげる人はないのだろうか、などと思っていたのである。しかし、日が経つにしたがって、おたきの疑いはべつの方向に変った。