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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
四
「はい」という返辞がなにをあらわすものか、改めて記す必要はないだろう。翌年の正月から、おたきは二の丸御殿に移って、正式にお部屋さまと呼ばれることになった。
四
おたきは光辰に与えられた白小袖に、白の帯をしめた姿で、侍たちの宿直部屋と、女中たちの控えの間とを、交互に、よくよくうかがってから褥の上へ戻った。
「いいか」と光辰が囁いた。
「はい」とおたきが答えた。
光辰は「やすめ」と囁いた。
褥は二つあり、どちらも厚く重ねて、広く、大きい。おたきは礼をして自分の褥にはいり、光辰は起き直った。時刻は夜の十二時すぎ、火を置かないので、寝所の空気はひどく冷えていた。光辰は雪洞をひきよせておいて、塗籠の妻戸をあけ、一冊の書物を出して来ると、畳の上へじかに坐ったまま、読みはじめた。
それはおたきが伽にあがって七日めの晩から、一夜も欠かしたことのない習慣であった。
――黙っていてくれるか。
初めての夜、光辰はおたきに云った。
――家臣たちに知られると困る、重太夫に知られると叱られるから、誰にも云わないでもらいたいのだ、黙っていてくれるか。
おたきは黙っていると約束した。