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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页

青空文庫

三

側室が一糸もまとわず、髪も解いて寝所へはいるのは、凶器など持ちこむ危険を防ぐためだ、という通説がある。事実、諸家の秘録には閨閥その他の争いから、そんな手段がもちいられた例もあるようだが、それだけの理由であったかどうかは、一概にはきめられないようである。――寝所での作法はこのほかにもいろいろあり、多くは語ることも書くことも憚られる、という種類のものだったそうである。おたきは坂倉家で二十余日、これらの作法を詳しく教えられたうえ、城へあがり、二の丸の雪見御殿にはいった。

坂倉家でおたきを指南したのは、菊岡という老女であったが、御殿へはいると、二人の女中と三人の端下がおたきに付けられた。

三

十一月下旬、大沼で鴨猟がおこなわれたとき、光辰は初めておたきを見た。

大沼は城下町の西北二里ほどのところにある湖で、山岳地帯から流れこむ五筋の渓流の水を湛え、湖面に老松川の落ち口がある。光辰の行列は午前三時に出門、湖北をまわって菩提所の瑠璃光寺へ寄り、猟の時刻を待つために休息した。寺を出たとき、夜は明けかかっていて、右側に迫っている山裾や谷や、左にひろがっている湖面が、濃くなり薄くなる朝靄の中に見え隠れしていた。