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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页

青空文庫

――重臣たちにとって、光央が藩主になることは脅威だったのだ。陶樹院も静樹院も、政治には無関心であった。それが生得のものか、押しつけられたものかは不明だが、光央の不幸な結果は予想されていたらしく、光辰は七歳のときからおろか者になるように育てられた。

その教育に当ったのは松山という老女であるが、幼い光辰に向って、「そうすることがあなた自身のおためであるから」と云い、まず涎をたらすことから教え始めた。自分からはなにもするな、学問もいやがれ、武芸にもそっぽを向け、なにごとにも興味をもたず、なにを訊かれてもわからないふりをせよ。そして絶えず涎をたらし、それを懐紙ではなく袖で拭くようにしろ、というのである。

「おまえにわかるだろうか」光辰はおたきに向って訴えるように云った、「おれは五万六千石の家に生れながら、七歳という年涎をたらす修業を始めたのだ、僅か七歳という年からだ」

おたきは正視するに耐えないように、眼をつむりながら頭を垂れた。

深夜の勉強もそのときからの習慣であった。これも松山の指導で、初めは一日おきに半刻ずつ、夜半に起こして素読を教え、二年めからは毎夜一刻ずつ、読書と習字の稽古を続けた。