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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页

青空文庫

力になるだろう」

光辰はそこで唇を噛み、どこを見るともない眼つきで、暫く黙っていた。

江戸で密訴の書状を受取ってから、光辰はそれとなく藩内の事情に注意し始めた。そして初入部をし、鴨猟のことや、伊部村の老婆の話などで、「自分のしなければならないこと」の方向がおぼろげながらわかるようになった。

「是非善悪をべつにしてもいい」と光辰は云った、「政治の権力をにぎる少数の者が、その領主を飾り物として遠ざけ、権力をふるって領民を思うままに搾る、おれの云いたいのはここだ、――権力をにぎる少数の重臣が、そこからうる利得を守るために、領主を木偶にし、領民を威嚇し誅求する、ただ権力をにぎっているというだけで、かれらはそうすることができるのだ」

光辰はゆっくりと口のまわりを拭いた。

「これだけ云えば、おれがなにをしようと思っているかわかるだろう」

おたきは黙って頷いた。

「松山の遺言のとおり、おれは決していそがないつもりだ」と光辰は云った、「年月をいとわず、入念に地固めをしてから手をつける、この民部からよこした書類にしても、はたして民部の本心であるか、それとも浅利重太夫の罠であるか、今のおれには判断がつかない、それでおまえの思案を訊いたのだ、――江戸で受取った訴状は、読んだことを悟られないように、元あった場所へ戻しておいた、こんど