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わかきひのせっつのかみ

若き日の摂津守

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页

青空文庫

「代りが欲しい」と光辰は云った。

すると下段で、重太夫が高く咳をし、するどい眼で光辰を睨んだ。

「代りが欲しいぞ」と光辰が云った。

重太夫がまた咳をし、「ならん」と民部に向って云った。

「民部」と光辰が訊いた、「――民部、おれは誰だ」

「おそれながら」と民部が答えた、「当老松城五万六千石の御領主、摂津守光辰さまであらせられます」

「それに相違ないか」と光辰は重太夫に訊いた、「おれが老松城の城主だということに誤りはないか、重太夫」

重太夫は舌打ちをした。

「いやはや」と重太夫は隣りにいる浜岡図書と、望月吉太夫に向って苦笑した、「おだれどのに仕上げたのはよいが、少し薬がききすぎたようです」

「しかし御家のためにはちょうじょう」

浜岡図書がそう囁いたとき、光辰はべそをかいたような顔で民部に云った。

「民部、槍を持ってまいれ」

永井民部は不審そうに見返した。

「表に槍があろう」と光辰が云った、「あれは重代相伝であり領主の標である、おれが領主である標に欲しいのだ、持ってまいれ」

民部は重臣たちのほうを見た。

「摂津守光辰はおれだ」と光辰は口のまわりを拭きながら云った、「おれが申しつけるのだ、民部、槍を持ってまいれ」