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あらほうし
荒法師
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,734 字 · 36 页
四
ことが起ったらしく、遽しく寺へ出入りする人の足音や、急にひっそりしたかと思うと、にわかに罵り喚く声などが、昏沌とした俊恵の意識をときどき現実へひき戻した、だがそれを不審に思うゆとりはなかった、かれは小坊主の口にした言葉を知らず知らずのうちに反芻しながら、ふとそこに迷路の出口がみつかりそうに思え、思想の虚実をあつめて凝視を続けていたのだ、――飯を食わぬと腹が減る、そしてついには死ぬ。そのとおりである、そしてそれが「そのとおりである」ことのすぐ次ぎになにかがある、なにかが、……俊恵は眼をみひらいた。
四
闇の中に眼をみひらいた俊恵は、呼吸をととのえ精神を凝らして智恵光の発するのを待った。微妙な刹那とはそういう場合をさすのだろう、しかしそのときかれの眼は観念の世界からまたしても経蔵の中の現実へひき戻された、身をとり巻く塗り潰されたような闇が、どこからともなく微かに明るみはじめたのである、それは夜から朝への光りではなかった、赤みを帯びているしゆらゆらと揺れる、ときどきはたと闇にかえるが、すぐまたおどろおどろしく光りを揺曳するのだ、眼がそのことを認めると間もなく、耳にもしだいに外の物音が聞えだした、……戞々と地をとどろかす