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きくづきよ
菊月夜
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1944(昭和19)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,129 字 · 32 页
五
欠くるところなしというものでは決してない、信三郎としては必ず発見するであろう失策の例から、高力政治の真実を掴もうと思ったのであるが、完全に隠蔽された私曲の数々をみて慄然とした。それは『奸曲』という感じだった、――個々の理由ではなく、その存在することがいかんのだ、孫太夫はそういったが、信三郎にも今こそ、高力除くべしという決意が動かすべからざるものとなった。
ある日彼は、町奉行役所へゆき、裁判記録をとりよせてみずから精査した。疑わしいものは囚人を呼び出して訊問した。四五日そういうことがあってから、こんどはじかに牢舎を見にゆき、囚人と記録の照合をはじめた。
「……なにかご不審があるのでございますか」
町奉行はかなり狼狽したようすだった。信三郎はさりげなく、
「いや大目附としての心得のためだから……」
そういって照合を続けていった。
五
牢舎のしらべを終ろうとしているときだった。病囚溜りに一人の異様な人間のいるのをみつけたので、足を停めると、「狂人でござります」という。狂人をどうして牢舎へ入れて置くのか、不審に思って覗いていると、「……御老職の屋敷へ忍び込んで盗賊をはたらこうと致したのです」