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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
それはこのままに暮らしていたのでは私たちの僅かな財産もだんだん減るばかりなので、私はそれを一人で気を揉んでいたけれど、そんな心配は一ぺんもまだ子供たちに洩らしたことなど無い筈であった。が、征雄はそういう点にかけては、これまでも不思議なくらい敏感であった。そういう征雄がどちらかと云うと一体に性質がおとなしすぎて困るのに反して、妹のお前はお前で、子供のうちから気が強かった。何か気に入らないことでもあると、一日中黙っておいでだった。そういうお前が私にはだんだん気づまりになって来る一方だった。最初はお前が年頃になるにつれ、ますます私に似てくるので、何んだか私の考えていることが、そっくりお前に見透かされているような気がするせいかも知れないと思っていた。が、そのうち私はやっと、お前と私の似ているのはほんの表面だけで、私たちの意見が一致する時でも、私が主として感情からはいって行っているのに、お前の方はいつも理性から来ていると云う相違に気がつきだした。それが私たちの気もちをどうかすると妙にちぐはぐにさせるのだろう。
たしか、征雄が大学を卒業して、T病院の助手になったので、お前と私だけでその夏をO村に過しに行くようになった最初の年であった。