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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
「でも、あきちゃんだって売られちゃったわ」と泣きながらおひさが云った、「いやだいやだって泣いてたけれど、去年とうとう売られちゃったのよ」
「あきちゃんて誰だ」
「お札売りのうちの人よ」
「覚えてねえな」と繁次は首を捻った、「それはその子が気が弱かったからだよ、本当にいやで、死ぬ気になってみな、にんげん死ぬ気になってやればできねえことはねえぜ」
おひさは顔をあげた。涙で濡れた眼を拭き、その眼でじっと繁次をみつめた。
「参吉さんもそう云ったわ」
「参ちゃんが、……いつ、――」
「今年の正月のやぶいりのときよ」とおひさは云った、「江戸一番の職人になるんだ、死ぬ気になってやるつもりだって」
繁次は胸の奥に一種の痛みを感じた。どういうわけか理由はわからないが、重苦しいような痛みを、胸の奥に感じて顔をしかめた。
「それでわかるだろう」と繁次は乾いた声で熱心に云った、「職人になるんでさえ死ぬ気でやるっていうんだ、おめえは自分の一生と、まあ坊のためだぜ、もう十二なんだからな、まあ坊のためにも自分の一生のためにも、死ぬ気になって頑張ってみな、その気になればきっと切りぬけられるぜ」