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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

をしてもいいと思い、……云っちまうが、おめえのことさえ諦めたくらいなんだぜ」

「知ってるわ」とおひさが囁き声で云った、「あたし知ってたのよ」

繁次は顔をそむけ、おひさからはなれて、河岸っぷちを石垣すれすれに五六歩ゆき、そこで川のほうに背を向けてしゃがんだ。――男が二人、御蔵のほうから高ごえに話しながら来、繁次とおひさを認めたのだろう、通り過ぎてゆきながら、「ようおたのしみ」と云った。どうやら酔っているらしかったが、それ以上からかうようすもなく、はずんだ声で話しながら去っていった。

――おたのしみ、か。

繁次は強く奥歯を噛み合せた。

――ここで蟹を捕ってやったことがあったっけな。

おひさがこっちへ歩み寄って来た。

「あたし繁次さんが好きだったわ」とおひさは低い声で云った、「こんな小さいじぶんから、ずっとあんたが好きだったわ、そのことを知ってもらおうと思って、ずいぶん小さい知恵をしぼったのよ、――でもあんたは勘づいてはくれなかった、あんたは一人ぎめに、あたしが参吉さんを想ってるって、自分だけで思いこんでいたわ、あたしが口やそぶりで、どんなにそうじゃないってことを知らせようとしても、あんたは気づいてもくれなかったのよ」