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おちばのとなり

落葉の隣り

山本 周五郎

「小説新潮」1959(昭和34)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页

青空文庫

「これが気になるのか」

「そうでもないけれど」と繁次は赤くなった、「でも、――将棋さえやらなければ、あんなことにはならなかったろうからね」

「なんでもねえのにな」と参吉が云った、「じゃあ浅草へいこう」

妹のおゆりと向うのおひさが、伴れていってくれとせがんだ。参吉は伴れていってもいいような顔をしたが、繁次はいつになく強い調子ではねつけ、参吉と二人だけででかけた。

繁次は小遣など持ってはいないので、見世物や芝居の看板を眺めたり、大道野師の口上を聞いたりしながら、折があったら、参吉にあの女のことを訊くつもりでいた。しかし参吉はきまえよく二人分の銭を出し、芝居を一つと軽業を見たのち、掛け茶屋であべ川餅を喰べた。五時までに店へ帰らなければならないというので、茶店を出るとまもなく帰ることにしたが、かみなり門をぬけたところで、繁次はそれとなくあの女のことを訊いてみた。参吉はやや暫く、なにも云わずに歩き続けてから、いつもの穏やかな、おとなびた口ぶりで云った。

「呼ぶのに困るんだ」と参吉は苦笑した、「おっ母さんじゃあねえし、おばあさんて呼ぶのは悪いようだしな」

十歩ほどいってから、繁次がまた訊いた、「参ちゃんは嫌いじゃあねえんだな」