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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

東次郎は妹の気持をきいてから承知し、婚約がまとまった。深江は十五歳だったが、彼女はおくてらしく、躯つきも気持もまだ子供のようであった。

――二年ばかり待ってやってくれ。

と東次郎が云い、計之介は承知した。

彼が二十五になった年、母が死に、続いて父が江戸で死んだ。計之介は父の葬儀のために江戸へゆき、そこで女と知りあった。

女は柳橋の芸妓で、名をおひさといい、もう二十二歳であった。計之介は亡父の友人の催してくれた宴席で彼女に逢い、そのあと、彼女に求められて、一人で隠れて逢いにいった。

――もう一度だけいらしって。

と、おひさはせがんだ。

――お国へお帰りになれば、もう一生おめにかかれないんですもの、ね、もう一度だけ。

それがたび重なった。江戸という都会が珍しく、芸妓あそびというものが珍しく、そして初めて知った女であった。計之介は女のつよい情に惹かれた。決して嫌いではなかったし、はなれ難い気持もあったが、結局はあそびであり、江戸にいるあいだのことだと思っていた。

彼は七十日を済ませて帰国した。別れに逢ったとき、おひさは泣きとおした。

――どうしてもあなたが忘れられない、いっそ死んでしまいたい。