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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

しかも東次郎は穏やかに話すつもりだったし、辛抱のできる限り穏やかに話した。けれどもこちらが逆上しているので、たちまち声が荒くなり、互いに言葉がするどくなった。

――意見めいた口をやめろ、本心を云ったらどうだ。

計之介が嘲笑して云った。

――おれに女と別れろというのは、おれのためではなく、女と別れさせて、おれを自分の妹といっしょにさせるためだろう。

――深江の名を出すな、深江の知ったことではない。

――深江さんとおれとは五年まえから婚約がある、それは家中でたいていの者が知っている、女のためにそれがこわされては面目にかかわるから。

――黙れ、黙れ藤吉。

東次郎は叫んだ。

――きさまそんなにも卑しくなったのか、あの女のために、そんなにも卑しい人間になったのか。

――女がどうしたって。

――相手がどんなに卑しい女だからって、自分まで卑しくなるとは情けないやつだ。

――その言葉は赦せないぞ。

――卑しいと云ったからか。

――女を誹謗したからだ、取消せ。

――いやだと云ったらどうする。

――念には及ばない、決闘だ。

すると東次郎は冷笑して云った。

――決闘などと云う気持ぐらいはまだ残っていたんだな。