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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

――あたしにですって。

――おまえがおれの妻なら、当然それはおまえに伝わるものだ。

おひさは珍しそうに、それをうち返し眺めた。それは青銅で鋳た八花形の手鏡で、直径四寸ばかり、裏に竜の浮彫があった。

――ずいぶん古いものらしいわね。

――漢鏡というから、千年以上も昔のものだろうね。

――では、たいそうな値段でしょう。

――よく知らないが、売るとすれば相当なものらしいよ。

おひさは魅せられたように飽かずその鏡を眺めていた。そして深い溜息をつき、やがてさもさも惜しそうに、元の匣の中へしまった。

――あたしには勿体ないわ。

――おまえのものなんだよ。

――こんな尊い高価な物なんて、あたしなんかには勿体ないことよ。

おひさはそれを元あった場所へ戻した。

「それはいつごろのことだ」と東次郎が訊いた。

「つい二十日ばかりまえだ」

「そしておれが来たんだな」

「初めて杉丸が来た」と計之介が云った、「おれは杉丸の顔を見たとき、いよいよこれでけりがつくだろうと思った」

そのとき彼は初めから逆上していた。

東次郎は穏やかに話そうとした。東次郎はがまんできるだけがまんし、もうそれ以上がまんができなくなって来たのであった。