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むし

虫

江戸川 乱歩

一~四「改造 第十一卷第六號 六月號」改造社、1929(昭和4)年6月1日<br>五~十二「改造 第十一卷第七號 七月號」改造社、1929(昭和4)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,053 字 · 86 页

青空文庫

あの娘は私の書いた恋文を読んでくれるのだ。仮令先方では気づかなくても、私は今、あの娘の美しい幻を描きながら、この巻紙の上に、思いのたけを打あけることが出来るのだ」この考が彼を夢中にしてしまった。彼は長い時間を費して、巻紙の上に涙をさえこぼしながら、あらゆる思いを書き記した。腕白少年は翌日そのかさばった恋文を、木下文子に渡したが、それは恐らく文子の母親の手で焼き捨てられでもしたのであろう。其後快活な文子のそぶりにさしたる変りも見えず、腕白少年の方でも、いつかけろりと忘れてしまった様子であった。ただ、代筆者の柾木少年丈けが、いつまでも、クヨクヨと、甲斐なく打捨てられた恋文のことを、思いつづけていたのである。

又、それから間もなく、こんなこともあった。恋文の代筆が彼の思いを一層つのらせたのであろう。余りに堪え難い日が続いたので、彼は誠に幼い一策を案じ、人目のない折を見定めて、ソッと文子の教室に忍び込み、文子の机の上げ蓋を開いて、そこに入れてあった筆入れから、一番ちびた、殆ど用にも立たぬ様な、短い鉛筆を一本盗み取り、大事に家へ持帰ると、彼の所有になっていた小箪笥の開きの中を、綺麗に清め、今の鉛筆を半紙に包んで、まるで神様ででもある様に、その奥の所へ祭って置いて、淋しくなると彼は、開き戸をあけて、彼の神様を拝んで