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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

。

「あッ、しまった――」

と蠅男が鉄の爪を持った残りの右腕を伸ばして床の上の抜けた左腕を拾おうとするのを、帆村はそうさせてはなるものかと寝台の上をヒラリと飛び越し、隠しもっていた桑の木刀でヤッと蠅男の頤を逆に払えば、

「ギャッ」

とさしもの蠅男も痛打にたまらず、と床上に大の字になって引繰り返った。闘いは帆村の快勝と見えた。

「おとなしくしろッ」

と帆村は蠅男のうえに馬乗りになり、いきなり相手の咽喉をグッと締め付けた――それがよくなかった。蠅男にはまだ人間放れのしたもの凄く頑強な右腕の残っていたことを忘れていたのだ。

キリキリキリと怪音を立てて蠅男の右腕が起重機のように三米ばかりも伸びたかと思うと、それが象の鼻のようにくるくるッと帆村の背後に曲って来て、大きな鋏のような鉄の爪が帆村の細首目掛けてぐっと襲い掛らんとする――あッ、危い!

糸子は先程から目を醒ましていた。いくら強い睡眠剤でも、部屋の中で機関銃を撃たれては眠っても居られない。彼女は突然目の前に展開しているもの凄い死闘の光景に呑まれて、魂を奪われた人のように呆然と成行を眺めて居たのである。しかし今愛人帆村の一命に係わる大危機を目の前にしては、どうしてその儘竦んでいられよう。