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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

ここは大阪の南部、住吉区の帝塚山とよばれる一区画の朝だった。

「この臭は、ちょっとアレに似とるやないか」

「えッ、アレいうたら何のことや」

「アレいうたら――そら、焼場の臭や」

「ああ、焼場の臭?」お手伝いさんは白いエプロンを急いで鼻にあてた。「そうやそうやそうや。うわァこら焼場の臭いやがナ」

そのうちに、臭いを気にする連中が、あとからあとへと起きてきて、てんでに廂を見上げたり、炊きつけたばかりの竈の下を気にしたりした。だがこの淡い臭気が、一たい何処から発散しているものか、それを突き止めた者は誰もなかった。

ワイワイと、近所の騒ぎはますます激しくなっていった。しかも臭気はますます無遠慮に、住民たちの鼻と口とを襲った。

東京のビジネス・センター有楽町に事務所をもつ有名な青年探偵の帆村荘六も、この騒ぎのなかに、旅館の蒲団の中に目ざめた。彼は或る重大事件の調査のため、はるばるこの大阪へ来ていたのだった。そして昨夜から、このマスヤ旅館に宿泊していた。

「――や、どうも。帝塚山はたいへん静かだという話だったが、こう騒々しいところをみると、あれはわざと逆の言葉を使って、皮肉を飛ばしたつもりなのかしら」