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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
「さあ誰のことだか分りませんが――ホラこのとおり、蠅の死骸が貼りつけてあるのですよ」
署長が帆村の手の掌のなかを覗きこむと、なるほど蠅の死骸だった。やはり翅や脚をがれ、そして下腹部は斜めにちょん切られていた。全く同じ、恐怖の印だ。
ああ蠅男! 今夜玉屋総一郎に死の宣告を与えた蠅男は、それより数日前に、ドクトル鴨下の屋敷に忍びこんでいたのだ。あの半焼屍体は、蠅男の仕業ではなかろうか。いやそれに違いない。
では蠅男は、玉屋総一郎を間違いなく襲撃するつもりに違いない。悪戯の脅迫ではなかったのだ。
「蠅男」とは何者であろう?
疑問の屍体
その奇怪なる蠅男の署名入りの脅迫状が、こうして二通も揃ってみると、これはもはや冗談ごとではなかった。
鴨下ドクトル邸の広間に集った捜査陣の面々も、さすがに息づまるような緊張を感じないではいられなかった。
中でも、責任のある住吉警察署の正木署長は佩剣を握る手もガタガタと慄え、まるで熱病患者のように興奮に青ざめていた。
「もし、検事さん。本官はこれからすぐに玉屋総一郎の邸に行ってみますわ。そやないと、あの玉屋の大将は、ほんまに蠅男に殺されてしまいますがな。