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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「おお出ている出ている、茶色の煙がねえ」

帆村は、腕がしびれるほど、望遠鏡をもちあげて、破れ煙突から出る煙をジッと見守っていた。

あの煙突から、昨夜の十時から今朝までも、あのとおり煙が出っ放しなんだろうか? そしてあの煙突の下に、果して臭気の原因があるのだろうか?

「あの建物は、なんですかねえ」

「さあ詳しいことは知りまへんけど、この辺の人は、あれを『奇人館』というてます。あの家には、年齢のハッキリせん男が一人住んでいるそうやと云うことだす」

「ほう、それはあの家の主人ですか」

「そうだっしゃろな。なんでも元は由緒あるドクトルかなんかやったということだす」

「外に同居人はいないのですか、お手伝いさんとか」

「そんなものは一人も居らへんということだす。尤も出入の米屋さんとか酒屋さんとかがおますけれど、家の中のことは、とんと分らへんと云うとります」

「そのドクトルとかいう人物とは顔を合わさないのですか」

「そらもう合わすどころやあれへん。まず注文はすべて電話でしますのや。商人は品物をもっていって、裏口の外から開く押入のようなところに置いてくるだけや云うてました。するとそこに代金が現金で置いてありますのや。