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おやどりことり
親鳥子鳥
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,828 字 · 181 页
「片山、行け行け!」
「大内、やれやれ!」
と級友が四方八方から鼓舞激励する。そこで僕は片山君と諜し合せて、恐る恐る教員室へ出頭する。
「先生」
と吉岡先生のお顔を拝借して、
「今日は久保田先生が三時間目を休んで下さいますから、先生も四時間目を……」
と言い淀む。嘘を吐くのでもないが、純正に真実でもないから真に申訳ない。
「休んでくれという註文かい?」
と先生も学生時代にやったと見えてお察しが好い。
「はあ。少し練習しないと負けるんです」
とこれは全然真実だから疚しくない。
「よし、久保田先生が休むなら俺も休んでやろう」
と吉岡先生は承知してくれる。点は辛いけれど話の分る人だ。もう一方片山君は教員室の向う隅で久保田先生を捉えている。両方対決になっては面白くない。
「先生、四時間目に吉岡先生が休んで下さいますから、先生も三時間目をお休みになって下さいませんか? 練習しないと他の組に負けるんです」
「よしよし。吉岡先生が休むなら僕も休もう。大にやり給え」
と久保田先生も休んでくれる。先生は大学を出たばかりだから、学生に同情が篤い。つまり斯ういう具合に両方から快諾を得れば、初めの嘘が真になる。