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おやどりことり
親鳥子鳥
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,828 字 · 181 页
「浩一郎唯今戻りました」
とやれば、お祖父さんは笑い出すに定っている。
「美しき御機嫌の体を拝し奉り恐悦至極に存じまする」
と尚お形式を主張すれば、お祖母さんはこれは唯事でないと思うから、
「お鶴、お鶴! 兎に角お医者さまを呼びましょう」
と大騒ぎになる。冗談だと言うまでは決して安心してくれまい。親に苦労をかけるのは親不孝だ。家では矢張り以心伝心で年来事が足りているのである。
僕は文一君の立場に同情する。お父さんがこの通りの実践躬行家だから、息がつけない。期待されるところが大き過ぎるので弱っている。半官銀行の頭取か一流会社の重役以下では納得してくれないらしい。しかしそれは遠い将来のことで、差当りは学校の成績である。これが尠からず文一君の頭を悩ます。席次を気にして可哀そうだ。僕は出来ることなら二番になって、文一君を一番にしてやっても宜いのだが、素より試験勉強で持っている芸当だから、うっかり手加減をすると此方が何番まで落ちるか分らない。余り下るとお母さんに叱られる。
尚お文一君には負けても他の奴等に負けたくないという気がある。一年級の時には文一君が一番だったけれど、二年級からは僕が一番文一君が二番で通している。