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とうくろうちそう
討九郎馳走
山本 周五郎
「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页
「はっ、およそ四十二里三十町ございます」
「…………」義直はちょっと口を噤んだ、言下に答えられるとは思わなかったのである、それでしばらく討九郎の顔をみまもっていたが、「では岡崎城の石垣に要した石の総数はどうだ」
「はっ」討九郎はまたたきもせずに、「櫓下を除きまして総数二万七千八百個ほどの石を以て築いてございます」
「なかなか精しいな、では濠の深さは」
「常の水位一丈三尺と心得ます」
「矢矧川に架けた橋の数はどれほどか」
「八橋、十七渡舟にございます」
義直はぎろっと眼を光らせながら「兼高、面をあげい」ときめつけるように云った、「いままで申したことは全部でたらめであろう、どうだ」「いかにも」討九郎は平然と、「仰せのとおりみんなでたらめでございます」
こう答え、平然と義直を見あげていた。あまりに人を食った態度である。義直の眉がぴくっと見えるほどひきつった。
「はじめからでたらめを申すつもりだったのか、それとも存ぜぬゆえ致方なく申したのか」喉元へ白刃をつきつけるような調子だった。
「恐れながら、お訊ねの条々くらいは、岡崎の家人として存ぜぬ者は一人もござりません、もちろんはじめからでたらめを申すつもりにてお答えつかまつったのでございます、それとも、……右ようの儀につき、いちいち真実を言上つかまつるものと思召しでございましたか」