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とうくろうちそう

討九郎馳走

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页

青空文庫

彼はじぶんで云うとおりの無骨者で、野人で、この数年来徒士組に野戦の訓練をさせることに熱中していた。――岡崎は西国諸藩に対する江戸幕府の第一線である、どのようにも武を練って万一の場合に備えなければならない、彼はそういう信念をもっていた。これは決して架空な心配ではなかった。幕府はすでに三代家光の世になっていたが、泰平の礎はまだ不動のものではない。一例をあげてみると、寛永十一年に家光が上洛したとき、帰りには名古屋城へたち寄ると云いながら、ある事情から遽かにそれをとりやめて彦根城へはいったことがある。万端の支度をして待っていた大納言義直はひじょうに怒り、

――かようなお扱いをうけては、天下に対して尾州の面目が立たぬ、しょせん城にたてこもって将軍家にひと合戦いどむよりほかはない。

と決心した。そのときは紀伊の頼宣が強諫して事なきを得たが、三家ですらひとつ間違うとそういうことになる状態なので、岡崎の位置はまことに重要だったのである。……だから討九郎の野戦訓練は徹底的だった。寒暑晴雨にかかわらず、矢矧川をはさんで常に武者押しの行われない日はない。そして或いはその先頭に馬を駆り、また采配を手に疾呼する彼の姿を見ないことはなかった。