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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

仲弓が仁者であるかどうかは私は知らない。しかし彼は口だけは慎んでいるように見受ける。いや、口が達者でなくて彼も仕合せじゃ。誠実な人間には、口などどうでもいいことじゃでのう。」

その場はそれで済んだ。しかし仲弓に対する蔭口はやはり絶えなかった。いうことがなくなると、結局彼の身分がどうの、父の素行がどうのという話になって行った。むろん、そんな話は、今に始まったことではなかった。実をいうと、孔子が仲弓を特に称揚し出したのも、その人物が実際優れていたからではあったが、何とかして門人たちに彼の真価を知らせ、彼の身分や父に関する噂を話題にさせないようにしたいためであった。ところが、結果はかえって反対の方に向いて行った。孔子が彼を讃めれば讃めるほど、彼の身分の賎しいことや、彼の父の悪行が門人たちの蔭口の種になるのだった。

3孔子は暗然となった。彼は女子と小人とが、元来如何に御しがたいものであるかを、よく知っていた。それは彼等が、親しんでやればつけ上り、遠ざけると怨むからであった。そして彼は、今や仲弓を讃めることによって、小人の心がいかに嫉妬心によって蝕まれているかを、まざまざと見せつけられた。