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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
竈に媚びよ
すると、その男は、だしぬけに大声をあげて歌いながら、頓狂な恰好をして、向うの方に行ってしまった。
「わしに添いたきゃ、渡っておじゃれ、
水が深けりゃ、腰まで濡れて、
浅けりゃ、ちょいと、小褄をとって。
惚れなきゃ、そなたの気のままよ。」
冉有は孤につままれたような気がして、永いこと彼を見送っていたが、ふと吾にかえって、これが世にいう隠士だな、と思った。彼は、その頃、百姓や樵夫の姿をした隠士たちが方々にいることは聞いていたが、実際に出遇したのは始めてであった。で、非常に珍らしい事件にでもぶッつかったかのように大急ぎで門内に引きかえし、息をはずませながらすべてを孔子に報告した。
孔子は聴き終って、歎息をもらしながら答えた。
「思いきりのよい男じゃな。しかし、一身を潔くするというだけのことなら、大して難かしいことではない。難かしいのは天下と共に潔くなることじゃ。」
冉有はその言葉をきくと、やっと落ちついて、再び用達しに門外に出た。
竈に媚びよ
王孫賈問いて曰く、其の奥に媚びんよりは、寧ろ竈に媚びよとは、何の謂ぞやと。子曰く、然らず。罪を天に獲ば、祷る所無きなりと。