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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

みんないい兄弟を持っているのに、僕にはそれがないんだ。」

今度は子夏が吐息をついた。しかし彼はすぐそれを笑いにまぎらしながら、

「そんな感傷は止したまえ。先生がいつも云って居られる通り、死生や富貴が天命なら、兄弟に縁のないのも、やはり天命さ。おたがい、心に敬しみを持ち、その心をもって社会生活を整えて行く努力をしさえすれば、四海到るところに兄弟は見出せる。何も肉親の兄弟ばかりが兄弟ではあるまい。現に、すぐ目の前に君の心の兄弟が何人も歩いているではないか。」

「ほんとうにみんなは僕を兄弟だと思ってくれるだろうか。」

「今更何を云ってるんだ。どうも君は自分で自分をつまらなくすることばかり考えている。もっと自信を持ちたまえ。」

司馬牛の足どりは幾分軽くなった。

「さあ、みんなと一緒になって歩こう。」

子夏は彼をせき立てて、大股に歩き出した。

二人が一行に追いついたのは、坂を下りきった橋の袂のところであった。みんなはそこでしばらく足を休めた。子游と子夏とはあたりの景色を眺めながら詩を吟じた。宰我と子貢とは相変らず立ったままで議論をつづけた。子路と冉有とは今夜の宿の相談をした。