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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
「右でも左でも、自分の好きな方に行くさ。」
「どちらからでも同じでしょうか。」
「同じじゃない。」
桀溺は、そう云ってひょいと顔をあげた。赧ら顔で、眼が小さくて、髯はちょっぴりしか生えていない。長沮より年は三つ四つ下らしい。
「同じじゃないよ。」
彼はもう一度そういって、にっこり笑った。小さな眼が肉に埋もれてしまって、大きな皺のように見える。
子路は何が何やら解らなかった。彼は怒ることも笑うことも出来なかった。すると桀溺は、急に笑いやめて、まじまじと子路の顔を見ながら云った。
「お前さんは一たい誰だね。」
「仲由という者です。」
子路は素直に自分の名を告げた。
「仲由? そして何かい、やっぱり魯の孔丘の仲間だというわけかね。」
「そうです、門人の一人です。」
「ふふふ――」
桀溺はだしぬけに笑い出した。それは菎蒻玉が振動して、その割目から湯気を吹き出すような笑い方だった。
子路は、孔子の門人だと答えたのを笑われたので、さすがにきっとなった。しかし、相手は子路の様子などまるで気にもとめていないかのように、そっぽを向きながら云った。
「孔丘のお仲間じゃ、渡場がわからないのも無理はない。