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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
彼は乱暴に彼等を押しのけて、いきなり車の窓枠に両手をかけた。
孔子は微笑しながら、
「どうしたのじゃ、えらく隙どったではないか。」
子路は、しかし、口が利けなかった。彼は何度も拳で荒っぽく眼をこすって、ただ息をはずませていた。
「隠士らしかったね。」
孔子は、子路の心を落ちつかせるように、ゆったりと云った。
「そうです。隠士でした。偉い隠士でした。」
子路は爆発するような声でそう云って、孔子の顔をまともに見た。
孔子の顔は静かで晴やかだった。それは子路が全く豫期しない顔だった。彼はもっとみじめな顔を車の中に見出すはずだったのである。彼はあてがはずれたような気がした。
「ほう、それはよかった。そしてどんな話をして来たかね。」
孔子にそう云われて、子路はすっかり出鼻を挫かれてしまった。存分に自分の意見を交えて、孔子の反省を求めるつもりでいたのだが、もうそれどころではなかった。やっと事実を報告するのが、彼には精一ぱいだった。
孔子は眼をとじ、門人たちは眼を見張って、子路の話を聴いた。一通り話がすむと、門人たちは、云い合したように顔を見合せた。それから、いかにも不安そうな眼つきをして、めいめいに、そっと孔子の顔を覗いた。