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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
囲みは、しかし、容易に解けなかった。幸いにして、一行に危害を加えるような風は少しもなかったが、ただ困ったのは、食糧の欠乏であった。一日二日はどうなり事足りた。三日四日も粥ぐらいはすすれた。しかし五日目になって、粟一粒も残らないようになると、さすがに門人たちの多くは、飢えと疲れとでへとへとになって、ぐったりと草っ原に寝そべってしまった。
孔子自身も、むろん辛かった。しかし、彼は、顔にいくらかの衰えを見せながらも、自若として道を説くことを忘れなかった。たまには、琴を弾じ、歌を唄うことさえあった。
元気者の子路は、さすがに孔子の身近くにいて、万一を警戒していた。だが彼の心は決して静かではなかった。彼は、こうした大事な場合に、孔子が全く無策でいるのが腹立たしかった。
(死に瀕している人間を前にして、道が何だ。音楽が何だ。そんなものは、行詰った揚句の自己欺瞞でしかないではないか。)
彼はそんなことを考えて、うらめしそうに孔子の横顔をじろじろと見るのであった。
五日目の夜が次第に更けて、そろそろ夜明も近くなって来た。初秋の空に、星は美しく輝いていたが、地上の叢には、生死の間を縫って、わずかに息づいている人間の黒いからだが、いくつとなく不体裁にころがっていた。