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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
で更に十日ほど練習した。すると、「もう気持もわかったようだ、いよいよ次の曲にしてはどうだ。」という。それでもわしは、その気持を出した作曲者の人物がわかるまでと思って頑張っていた。すると、襄子がある日、非常に驚いたような顔をして、わしの琴を弾いている様子を見ていたが、「もうきっと作曲者の人物までわかったに相違ない。」というのじゃ。わしはその時、静かな深い気持になっていた。そして色の浅黒い、面長な、大洋の果を望んでいるような眼付をした、王者のような人の姿を思いうかべていたのじゃ。わしは、これはきっと文王に相違ないと思った。で、そういうと、果して、その通りであった。」
門人たちの眼は輝いた。彼等は、孔子が音楽の間に見た文王の姿を、そのまま孔子自身の姿において見出していたのである。
「先生、襄子自身は、それが文王の曲であると知りながら、文王の姿を見るまでには到っていなかったのでしょうか。」
と、一人の門人がたずねた。
「そこじゃ、わしがもう一息というのは。襄子は何といっても、まだ音楽を技術として愛していたに過ぎない。文王の姿を見、文王の気持をつかむには、ただの技術では駄目なのじゃ。