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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

力足らざればなりと。子曰く、力足らざる者は中道にして廃す、今女は画れりと。――雍也篇――

「冉求はこのごろどうしたのじゃ。さっぱり元気がないようじゃが。」

孔子にそう云われるほど、実際冉求はこの一二カ月弱りきった顔をしている。別に身体に故障があるのではない。ただひどく気分が引き立たないのである。

彼が孔子の門にはいったのは、表面はとにかく、内心では、いい仕官の口を得たいためであった。仕官をするには、一とおり詩書礼楽に通じていなければならない。そして、その方面にかけての第一人者は、何と云っても孔子である。孔子の門にさえはいって居れば、ともかく一人前の人間に仕立ててもらえるだろうし、それは仕官の手蔓だって、きっと得やすいにちがいない。そう思って、彼はせっせと勉強しつづけていたのである。

ところが、しばらく教えをうけているうちに、彼は一つの疑問にぶッつかった。それは孔子の学問が、最初自分の考えていたのとちがって、何だか実用に適しないように思えることであった。なるほど孔子は、いつも理論よりも実行を尊ばれる。それはよくわかる。よくわかるが、その実行というのが、非常に世間放れのしたもので、忠実にそれを守っていたら、実生活の敗北者になりそうなことばかりである。