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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

あれかこれかと詮議の末、やっと白羽の矢が孔子に立てられた。

孔子は、当時まだ三十六七歳にしかならなかったが、すでに多くの門人もあり、その学徳は国の内外に聞えていた。ことに、礼についての彼の造詣は、推薦者の言によると、天下にならぶ者がなかった。それだけに、彼に対する期待も大きかったが、なにぶん、年が若いというので、一部では、彼を危ながっているものもないではなかった。ことに、永らく大廟に奉仕している人たちの間には、変な猜み心から、いろいろの取沙汰が行われていた。

さて、いよいよ祭典の準備がはじまって、孔子もはじめて大廟に入ることになったが、その日は、彼に好意を持つ者も、持たない者も、たえず彼に視線を注いで、その一挙一動を見まもっていた。

ところで、彼等の驚いたことには、孔子は先ず祭官たちに、祭器の名称や、その用途を訊ねた。そして、一日じゅう、それからそれへと、その取扱いかたや、儀式の場合の坐作進退のこまごましたことなどを、根掘り葉掘り訊ねるのであった。

「何という見当ちがいでしょう。これでは、まるで五つ六つの子供を雇い入れたのも同じではありませんか。」