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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

堀尾君は気がつかなかったが、床の間を背負っていた鳧さんは前向きだったからチラリと認めた。

「…………」

「仮りに一個人として見ても、片岡さんは君の先輩だ。君が生れない前に大学を出ている。尚お君の先生の奥さんのお父さんだ」

「…………」

「有らゆる意味に於ての先輩を大馬鹿というのは礼を欠いている」

「…………」

「よく考えて見給え」

「私は会社をやめます」

「然う早合点をしちゃ困る。僕は何も君に引けの何のと言っているんじゃない」

「しかし……」

「何だね?」

「大馬鹿と罵る上からは、その覚悟をしています」

「君は未だ青い」

「…………」

「出処進退というものは然う軽々しく定めるものじゃない」

「しかしやめます」

「君は会社が気に入らんのか?」

「いゝえ」

「それじゃ何故やめる?」

「責任を負うんです」

「それじゃ犬が喧嘩をした為めにやめることになる。君こそ公私混合じゃないか?」

「…………」

「何うせ行きがかりで言ったことだから、取消せば宜いんだ」

「取消しません」

「何故取消さない?」

「片岡さんを大馬鹿だと信じています」

「何故片岡さんが大馬鹿だ? 君」

「それはあの書生に言い聞かせた通りです」

「僕はそれまでは聞いて来なかった」